失敗の本質
過去の教訓から学ぶことは多いですよね。
PMBOKガイドを読み解いていっても「教訓」がいかに大事であるのか解ります。
身近な教訓だけでなくとも、
歴史の中から学べる教訓もあります。
本日紹介する書籍は「失敗の本質」です。
「失敗の本質」は、
太平洋戦争中における日本軍の6つの作戦をケーススタディにして、
作戦や組織論を分析し、そこから教訓を学び取っていく内容となっております。
初版は1984年で、
スクラム開発でも有名な「野中郁次郎さん」をはじめとした、
6名の研究者による共著になります。
6つの事例
「失敗の本質」は、
元々物量が違うアメリカとの戦闘を「なぜ始めたのか?」
「戦争を阻止できなかったのか?」といったような、
戦争原因を究明するような内容ではありません。
開戦した後、6つの敗戦事例の「戦い方」「敗け方」から、
教訓を学び取ろうという趣旨の書籍になります。
「失敗の本質」第1章では、
これら6つの事例の詳しい説明と分析から成っています。
6つの事例は以下の通りです。
- ノモンハン事件
- ミッドウェー海戦
- ガダルカナル作戦
- インパール作戦
- レイテ海戦
- 沖縄戦
この書籍では、上記の作戦や戦いがどのようなものだったのかを知ることも出来ます。
私もはずかしながら、詳しく知らなかった作戦や戦いもあり、勉強になりました。
6つの作戦に見る、共通の失敗要因
結局上記全ての戦いに日本軍は敗北するのですが、
第2章では、これら6つの作戦に共通する問題点などが書かれています。
その中からいくつかピックアップしてみます。
目的があいまい
皆さんはご自身のプロジェクトの「目的」をご存じでしょうか?
例えばプロジェクトメンバー複数人に「目的」を尋ねたら、全員違う方向の答えが返ってくるかもしれません。
目的が正しく共有されていないと、
各メンバーが考える「これが目的に違いない!」といった独自の解釈に基づいた行動を行いがちです。
「失敗の本質」では、
ノモンハン事件、ミッドウェー海戦、レイテ海戦、インパール作戦などで、
「目的があいまいなまま作戦が実行されたことが失敗につながったのではないか?」と語られています。
また、ミッドウェー海戦においては、
目的が「ミッドウェー島の攻略」「敵空母部隊のせん滅」の2つが掲げられており、
どちらを優先すれば良いのか曖昧なままでした。
このように複数の目的を一度に設定してしまうことで、
戦力を分散することになってしまう事も問題として挙げられています。
現代でも、複数の目的を同時に掲げているプロジェクトはよく見かけます。
複数の目的は混乱を呼ぶと同時に、目的が定まっていないことを露呈しているのかもしれません。
単一の目的を掲げることで、全メンバーの力を集中させることも多いでしょう。
長期的な戦略の欠如
日本軍は短期決戦を行うような戦略が多く、長期的な計画を立てることが少なかったようです。
物資の問題などから、短期的戦略を行っていた要素もあるかもしれませんが、
作戦が失敗した時などの計画(コンテンジェンシープラン)が立っておらず、
視野の狭い状態で作戦立てを行うことが多かったようです。
日本軍は、現状からモノゴトを考え、
結果を積み上げていく思考方法が得意だったと書かれています。
これは目的が「あいまい」である傾向が強かったため、
そのような長期的戦略を考える土壌が育ちにくい状態にあったのかもしれません。
間柄重視の組織構造と結果よりプロセスの重視
日本軍の組織は、
合理的かつ体系的な組織構造よりも、
人と人同士の間柄や人間関係を重視する構造だったようです。
「根回し」や「腹のすり合わせ」などによる意思決定は今でもよく見られます。
このような間柄を優先し、意思決定が遅れ、失敗に繋がっていきます。
現代でもこの辺りは大きく変わっていないのかもしれませんね…。
また、評価についても結果や成果を重視するのではなく、
「リーダーの意図」や「やる気」が重要視されました。
このような評価制度により、
何か重大な責任があったとしても、
声の大きな人や偉い人は、再度要職についたり、
責任が問われなかったりすることも多かったようです。
何か問題を起こしても、
「あの人だから…。」「頑張っているから…」といった理由で責任を取らない状況、
今でも見かけるのではないでしょうか。
その人の思想や考え方に問題があるとしたら、
同じ失敗を繰り返すことになります。
学習の軽視
日本軍では、自由に活発な議論が出来るような空気ではなかったため、
問題や知見などの情報は、一部にとどまっていたようです。
組織全体のなかに、
論理的な議論や問題点を話し合う風土や制度がなかったのは致命的だったのかもしれません。
しかし、現代でもどうでしょうか?
「心理的安全性」の少ない組織などでは、
もしかしたら、「学習」や「改善」を行う機会が存在していないのかもしれません。
共通の失敗要因の関連性
本書では、
共通する問題点は無関係に存在するのではなく、
一定の相互関係が見られると書かれています。
例えば、「目的が明確」でないから「短期的な戦略」が出てくる。
間柄を重視する組織構造は、そのような評価に繋がっていきます。
もしかしたら、合理的ではない間柄を重視する組織構造なので、
目的が明確に出せなかったのかもしれません。
すべては繋がっているのですね。
現代でも、何か大きな複数の問題が発生した時、
根本原因を考えてみることで、一気に解決出来ることもあるかもしれませんね。
適応は適応能力を締め出す
適応力のある組織は、環境を利用して絶えず組織内に変異、緊張、危機感を発生させている。
引用:失敗の本質より
「組織が問題に適応し、問題がなくなると、それは組織の死を意味する」と書かれています。
日本軍は太平洋戦争前の平時においては、安定的な組織だったのではないだろうか?
そのようにも書かれています。
組織を進化させ、適応力強くするためには、
絶えず変化や緊張感、危機感をもっておく必要があると書かれています。
何か大きな問題が降りかかる前に、
このように絶えず変化を受け入れていく土壌が育っている組織は強いということでしょう。
なかなか難しいと思いますが、
長く安定している状態にスパイスを加えていくことで、
より良い組織やチームになっていくことはあるでしょう。
「失敗の本質」書評
太平洋戦争当時、インターネットもなければ、
文化や価値観、状況も違います。
一概に、当時の行動について何か結論づけたり、判断することは出来ません。
しかし、本書を読むと、
現代の我々でも当てはまるような事例は多く、
改善すべき点や気づきを沢山もらえる事が出来ます。
太平洋戦争は悲惨な状況を生み出してしまいましたが、
そこから反省するだけでなく、
教訓を活かしていくことは、我々現代人が受け継ぐべきバトンなのかもしれません。
最初に出版されたのが1984年ですが、
それから三十数年経つ現代でも十分に考えさせられる内容でした。
プロジェクトが上手くいっていない。
組織が上手く回っていない。
そのような悩みを抱えられている方には、
何か大きなヒントをこの一冊から得ることが出来るかもしれません。
参考書籍:「失敗の本質」 著者:戸部 良一,寺本 義也,鎌田 伸一,杉之尾 孝生,村井 友秀,野中 郁次郎