孫子の兵法

民の耳目を壱にする 孫子の兵法・軍争篇にまなぶ「チームを一つにする忘れがちなシンプルな方法」

孫子にまなぶ「チームを一つにするシンプルな方法」

プロジェクトに何か重大な変化が起きたりした際に、
現代ではメールなどを利用してチームメンバーに瞬時に伝える事が出来ますね。

しかし、チームメンバーが情報を理解していなかったり、
こちらの指示通りに動いてくれないことはないでしょうか?

例えばこのようなことはないでしょうか?

リーダー:「来週が納品日ですよ。進んでいますか?」
メンバー:「え?そうだったんですか…知りませんでした。」
リーダー:「メールをしっかり見てください!」

本記事では「孫子の兵法・軍争篇」より、
チームメンバーに情報をしっかり伝えて、
統率をとり、チームを一つにするシンプルな方法
をお伝えします。

民の耳目を壱にする

民の耳目を壱にする

孫氏の兵法・軍争篇の中には、
「民の耳目じもくいちにする」という一節があります。


約2500年前の春秋戦国時代、
戦況を伝えたり、指示をするのは「口で説明」するだけでは伝わりません。
ましてやメールや電話もないので、状況の変化を伝えるには別の方法を取る必要があります。

そこで、
太鼓やかねを使って音で指示したり、
旗やのぼりを用いて状況を伝えました。

昼間は旗やのぼりを使い「目で把握」
夜は太鼓やかねを使い「音で把握」を行い、
全体に対する指令や状況を自軍全員に伝える工夫を行っていました。

例えば大きな音で太鼓を鳴らしたら「攻めろ!」という合図だったり、
何度も鳴らしていれば「退却しろ!」の合図だったりしたわけです。

このように全体に伝わるシンプルな形で指示を出すことで、
統率をとっていたのですね。

戦争もののドラマや映画でも確かに太鼓や旗などを利用していますよね。

原始的だなぁ。と思う一方で、実は今でも応用できる方法なのかもしれません。

シンプルな目的を分かりやすく共有しよう!

プロジェクトのビジョンを分かりやすく共有する

プロジェクトの目的や目標をチームメンバーに聞いてみると、
千差万別の答えが返ってくるかもしれません。

しかし、もともとそのプロジェクトを始めるときに掲げた「想い」「ビジョン」があったはずです。
そういった「想い」「ビジョン」を共有出来ていますか?

組織の「社訓」「ビジョン」でも同じです。

昔はこういった社訓やビジョンを朝礼で復唱する企業もあったでしょうが、
最近ですと、こういった朝礼はブラック感が出てしまいますよね(汗)

しかし、
しっかり「目的を共有する為」ということを説明して、
変に横にずれるようなことがなければ、
こういった朝礼は今でも有効かもしれません。


「何のためにこのプロジェクトが動いているのか、リーダーを含めて誰も分からない状態」
そのような形を何度も見てきましたが、
そういう時こそ、シンプルなビジョンを再度定義して、
共有することで統一感が少しづつ生れることもあります。

マイルストーンリストやロードマップを分かりやすく何度も共有する

プロジェクトのスケジュールは状況によって変化していきます。
初期のスケジュールを守り続けるのではなく、変化に順応していきます。

しかし、この変化を「メール一つ」で伝えたつもりになることはないでしょうか?

大きな変化があった場合や、
しっかり守らなければいけないマイルストーンリストやロードマップはある程度大きく、
そして、みんなの目のつくように努力をする必要があります。

「メールくらい読んでください…」という気持ちではなく、
「しっかり伝えることは難しい」という認識を持っていた方が良いでしょう。

直近のマイルストーンを毎朝共有したり、
メールで大文字や【重要】マークを利用して、何度も伝えます。

頻度は状況や人数次第ではありますが、
「もう何度も聞きましたよ!」と言われれば伝わっていることになりますね。
リマインドという形で少し間隔をあけて送るのも効果的でしょう。

プロジェクト憲章を共有しよう

プロジェクトマネジメントの知識体系集であるPMBOKの中では、
プロジェクトを正式に認可する文書として、
「プロジェクト憲章」の作成プロセスがあります。

プロジェクト憲章には以下の項目などを含みます。

  • プロジェクトの目的
  • 主要な成果物
  • プロジェクト全体リスク
  • 要約マイルストーン
  • 主要なステークホルダー
  • プロジェクトの終了基準
  • プロジェクトの成功を判断する事項や成否を判断する人など
  • etc…

プロジェクト憲章には、
大切な「プロジェクトの目的」や「プロジェクトの幹」となることが書かれているものですし、
相すべきだと思います。
このようなプロジェクト憲章をチームメンバーが把握できるようにしておきます。

シンプルにみんなに「方向性」を伝える

プロジェクト憲章などで大きな方向性は示しつつ、
「今行動してもらい事!」「シンプル」に伝えます。

「今はこの作業にみんな集中してほしい!」
「締め切りまで、あとXX日です」

といった文言をメールに大きく載せて、定期的に何度か送ると理解が深まります。
(送る回数や間隔はバランスが必要ですが…)

また、テレワーク下においても、リモートツールなどで会議を行い、
しっかりと「シンプル」に3回ほど少し言葉を変えて、
同じようなことを伝えるだけでも効果はあるでしょう。

例えば、以下のような形で、納品が迫っていることを何度も織り交ぜます。
「プロダクトの納品まであと2日です!」
「ペラペラぺラ」
「プロダクトの納品はX月XX日ですね。」
「ペラペラぺラ」
「明後日で納品ですね!」

また、Slackなどのチャットツールを普段利用している場合は、
チャンネルのタイトルを「今週金曜日までに納品!」などと、
直近の目標を書いておくだけでも効果が期待できます。

全体に速く浸透させたい場合は、「シンプルかつ目立たせる」を心掛けるのが良いでしょう。

風林火山のような行動が出来るチームを!

風林火山

孫子の兵法・軍争篇には、以下の有名な言葉があります。

その疾きこと風の如し。
徐かなること林の如く。
侵掠すること火の如く。
動かざること山の如し。
これらは、戦国武将の武田信玄「風林火山」旗印として掲げました。

風のように疾く動き、
状況を見守る時は林のように静かにしておく。
侵略するときは火のように侵略し、
動くべき時までは山のように動かない。
といったように、「状況に応じたチーム行動」のことを伝えています。

更に、孫子では下記のようなことも伝えていますが、
本質は同じでしょう。
「知り難きこと陰の如く、動くこと雷震の如く」

武田信玄も「私たちはこういった気概を持っている」という事を、
自軍、そして敵軍にも伝えているわけです。

もしかしたら武田軍の兵隊は「なんだかカッコいいな~。」程度に思っていたかもしれませんが、
それだけでも士気が上がったり、頑張ろう!という気になり、
そこから統率が生れてくるのでしょう。

その旗の存在そのものが風林火山の行動を促進するわけです。

スローガンやチーム名を考えてみる

このように「風林火山」といったスローガンや、
チーム名をつけることで士気が上がることもありますし、
そのスローガンが「プロジェクトの目的」を表していることもあるでしょう。

このようなスローガンやチーム名といったものをじっくり考えることで、
チームが一つになっていくこともあるでしょう。

ある意味、暴走族の旗印からも学べることはあるのかもしれません。

しかし、そのためには「シンプル」「目立っている」必要があります。

シンプルだからこそ、じっくりみんなで考えてみるのも良いでしょう。

そのスローガンを考える行動こそがチームを一つにする行動かもしれません。

孫子の時代では、戦争になると、けして精鋭部隊が集まる訳ではありません。
戦争に対するモチベーションの低い農民など、様々な民衆が集まるわけです。

そんな時、「ああ、もっと優秀な人がいれば…」と言ってもどうにもなりませんよね。

孫子は個の力に頼らず、組織の力を作るように促しています。

太鼓の音旗印などで統率がとれると、
勇敢な兵も自分勝手に攻めることは出来ないし、
臆病な兵も勝手に逃げることは難しくなる。

と伝えています。

メールもなく、チームメンバーの能力や意識もバラバラ。
しかし、遠くまで渡るチームメンバーの行動力を統率していたのですね。

我々現代人もテクノロジーだけに頼るだけではなく、
このような本質をもう一度見つめなおしたいものです。

参考書籍:孫子 (講談社学術文庫) 著者:浅野 裕一