孫子の兵法

「五事七計」孫子の兵法をテーラリング! プロジェクトの始め方

孫子の兵法を生活に活かす

「孫子」をご存じでしょうか?
現代でもさまざまな人々に愛読されている有名な約2500年前の兵法書です。

今回は2500年前の兵法書「孫子」を参考に、プロジェクトの始め方を学んでみましょう。


孫子の著者と言われている孫武(そんぶ)が、活躍した時代は春秋戦国時代です。
戦乱の世の中で孫子などの兵法書が現れる前は、天運に任せた戦争が多かったようです。
そこからキチンと理論化し体系立てた兵法書として、孫子が誕生しました。

戦乱の世の中のため、不確実なことの多かった春秋戦国時代。
そのような時代背景から編み出された生きるための兵法書です。

三国志の曹操、武田信玄、徳川家康、ナポレオン、ビルゲイツなど、
さまざまな偉人たちも愛読しており、巷では孫子の本が沢山出版されています。
現代にも通じる魅力があるから、こうして長年愛されているのですね。

そんな孫子から学びを得てみましょう。

「兵とは国の大事なり」 孫子から学ぶプロジェクトの始め方

孫子から「プロジェクトの始め方」に関する学びを考えてみましょう。
孫子は全部で13篇で成り立っており、それぞれテーマが存在しております。
その中の計篇(計画に関することが書かれている篇)から、次の一文を見てみましょう。

「兵とは国の大事なり。死生の地、存亡の道は、察せざるべからざるなり。」
兵とはここでは戦争と捉えます。
戦争を行うのは国の一大事である。
兵士の生き死にや国家の存亡をかけた戦いは慎重に判断を行う必要がある。
といった意味を持ちます。

孫子では、ただ1つの戦争だけに勝利することを目的として書かれておりません。
その戦争の先にある国の繁栄という大きな目的を念頭においてます。

プロジェクトの開始に関しても組織の繁栄やポートフォリオ戦略などを考えて決めるべきですよね。
理想論だけではない、普遍的な考え方が見て取れます。


戦争を考えるとき、回避できるなら回避する。
仮に戦争になったとしても、早く終わらせることを良しとしています。
また、戦争を行うとしても、しっかり判断を行う必要があると説いています。
では、どのように判断すべきでしょうか?

五事

まずは道、天、地、将、法の五事と呼ばれる事柄を見極めます。

道とは、民衆の心、
もしくはは兵士と君主の心を一つにさせて、同じ方向を向いているかを確認します。
大義名分があり、忠誠心があるかどうかですよね。

プロジェクトでも、そこに誠実さや、納得のいく筋が通っていれば、
プロジェクトメンバーの士気があがりますよね。

天とは、時制や季節のことで、
日かげか?日なたか?どの季節か?寒い季節か?暑い季節か?などです。

プロジェクトを始める判断材料では関係はなさそうに見えますが、
例えば、「このタイミングでプロジェクトを始めるとしたら、競合とぶつかるのではないか?」や、
「大きなイベント前にリリースすべきじゃないか?」など、
プロジェクトの各所タイミングやマイルストーンを意識すると捉えてみることもできます。

地とは、戦場や国が広いのか?狭いのか?遠いのか?近いのか?高いのか?低いのか?など、
地形に関する事柄です。

プロジェクトで考えてみると、
例えば、市場が大きいのか?小さいのか?
または、強味を活かせる業界はどこか?などと捉えることが出来そうです。

将とは、将軍の資質はどうなのか?ということです。
部下を思いやる心があるのか?信頼されているか?冷静な判断が出来るか?
ルールに対して厳格であるか?などの能力です。

現代ですと、リーダーの資質ですよね。
ただ優しいだけでなく、冷静で公平、厳格な判断が出来るのかどうかを見極めます。

法に関しては、軍法やルールがしっかり定められているのかをチェックすることです。

これは、現代でも考えることが出来ますよね。
例えば、進捗のルールや報告のルール、エスカレーションや変更を行う際のルールなどが、
どのくらい確立されているかを見てみると良いでしょう。

七計

上記の五事を把握したのち、今度は相手と七つの事柄で比べてみます。

  • どちらが道として理にかなっているのか?
  • 将軍はどちらが優秀か?(リーダーはどちらが優秀か?)
  • 天と地の利はどちらに有利か?(タイミングや強みはどちらが有利か?)
  • 法はどちらが守られているのか?
  • 兵力はどちらが強いのか?(優秀なメンバーはどちらがそろっているのか)
  • 兵卒はどちらが訓練されているか?(トレーニングプログラムはどちらが優れているか)
  • 賞罰はどちらが明確か?

五事に関しては常にチェックを行いつつ、実際に相手と競う必要が出てきた場合は七計で比較します。

自社の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威 (Threats)の4つの指標から分析する「SWOT分析」と何処か類似点も感じますね。

この五事七計から、本当にプロジェクトを始めるべきかどうか?について、
考えてみるのはいかがでしょうか?

孫子では
「主君がこの五事七計を採用し、私が将軍になって運営すれば、必ず勝利に導くことが出来るでしょう。 しかし、五事七計を採用しなければ、私が将軍になったとしても敗北するでしょう。」
と説いています。

自己分析、競合の分析の重要性が伝わりますね。

孫子の兵法をテーラリングしよう

プロジェクトマネジメントの知識体系集であるPMBOKガイドには、
「テーラリング」という考え方について書かれています。

プロジェクトは独自性があり、一つ一つ違うものです。
また、組織やチームにおいてそれぞれ文化も違えば、状況も違います。

PMBOKガイドに書かれているプロセスをそのまま当てはめるのではなく、
自分の組織やチームに沿う形で服の仕立て(テーラリング)を行うように適応していくこと。
これをテーラリングと呼びます。

PMBOKガイドは自分のチームのやり方とは違うので、
役に立たないという声を聞くことがあります。
しかし、PMBOKガイドから何らかの「気づき」を得て適応しようとすれば、
それは大きな武器になることでしょう。

「孫子」にも同じことが言えます。
「2500年前の戦争に関することなんて、現代のビジネスや生活の役に立たない。」といった観点で眺めてしまうと、何の役にも立たないでしょう。
しかし、そこから「気づき」を得て、解釈をし、自分のチームや生活に応用していくことで、
2500年前の兵法書が語り掛けてくる英知や教訓を活かすことが出来るのではないでしょうか。

また、「実際にやってみる。」ことが大切です。
尺度や解釈は人それぞれで良いと思います。
何かを始める時に、五事(道、天、地、将、法)を考えてみましょう。

例えば、あなたが「もう嫌だ!会社を辞めるぞ!」と思っていたとしましょう。
勢いで行動する前に、五事を考えてみましょう。
・道(会社を辞めることは大義名分が立っているか?)
・天(タイミングとしては大丈夫か? 年齢、時期などは適切か?)
・地(自分の能力は市場とマッチしているのだろうか?)
・将(ここでは自己分析ですかね。自分を客観的に見直してみます。)
・法(規律正しく行動できているだろうか?)
などを考えてみます。

何か「気づき」があるかもしれません。

五事を意識して、プロジェクトを始めてみてはいかがでしょう?

参考書籍:孫子 (講談社学術文庫) 著者:浅野 裕一

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