兵は拙速を聞くも、いまだ巧の久しきを睹ざるなり
長期化したプロジェクトに参加したことはありますか?
長期化したプロジェクトに属していると、
以下のような状況に陥っていることはないですか?
ステークホルダー(プロジェクトに関わる人)が多く、全体が見えなくて、皆疲弊している。
成功のイメージが出来ない状態だが、莫大な予算と期間を利用しているため終わらせることも出来ない。
孫子の兵法でも「戦争は長期化させるべきではない」と書かれています。
本日は「孫子の兵法・作戦篇」より、
「兵は拙速を聞くも、いまだ巧の久しきを睹ざるなり」という一文を紹介します。
「戦争が短期決戦で終わって成功した例は聞くが、長期化して成功したという例は聞いたことが無い」
という意味になります。
本日は、孫子の兵法から、プロジェクトの長期化によるデメリットと教訓を考えていきましょう。
予算と期間がたっぷりあるプロジェクトは自由度が縛られる
莫大な予算と期間をかけているプロジェクトでは、
「予算と期間がある」ので「予算と期間がないプロジェクト」に比べ、
「今までにないプロダクトを生み出せる自由度・予算のないチームにはできない事が出来る自由度」があるように見られがちです。
「予算と期間が多い」ということは、求められている成果も大きく、
重要なステアリングコミッティ(偉い人)も増えていく傾向にあります。
「あれもこれも盛りこみたい。」といった要求度が高くなり、ビジョンもバラバラであることが多いものです。
そういったプロジェクトは計画段階でしっかり練られていない状態でスタートしている可能性もあります。
予算と期間が多い為、
プロジェクトの弱みや能力が及ばない所、プロジェクトの問題などを「予算と期間」で解決しようとします。
予算を用いて人員リソースの追加で問題を解決しようとしたり、期間をずるずる延ばして先送りにしたり。
プロジェクトへの期待も大きくなるため、「あれもこれも盛り込んだ、絵にかいた餅のような仕様」が出てくる可能性も高いものです。
こうなっていくと、実際に走り出した時、変更も難しくなります。
変更が起こる時、
それは、予算と期間が更に増えるとき(大抵は追加仕様とのトレードオフにより更なる問題を引き起こす)、
もしくは予算と期間が尽きる時です。
予算と期間が尽きてくれば、初めて真のゴールが見え、物事が動き始めます。
*プロジェクトを中止することがゴールになることもあるでしょう。
プロジェクトの長期化による、見えない鎖
長期化していくと、沢山の見えない鎖が出来上がっていきます。
まず、長期化させているため、プロジェクトを閉じることが難しくなる鎖。
「もうこのプロジェクト終わらせた方が良いですよ。」
「そうなんだけどね。もう予算も沢山使っちゃったし、長期間動いているんだ。今更終わらせないよ。」
長期化しているため、プロジェクトを閉じることが難しくなっていきます。
大規模な予算と期間をかけているので、誰も責任を取りたくないですよね。
閉じる事自体がある意味プロジェクトになってしまいます。
次に、長期化させているため、仕様をシュリンクすることが難しくなる鎖。
「もう収束させる方向に動きましょう。 仕様をシュリンクしていきましょう。」
「そうなんだけどね。もう予算も期間も沢山使っちゃったし、今更シュリンクなんて出来ないよ。
全て実装しなければ。」
長期化しているプロジェクトの為、仕様変更の影響度も大きく、シュリンクすることが難しくなっていきます。
見えない鎖が解かれる時、それは、予算と期間が尽きる時です。
ビックプロジェクトにはご用心
予算と期間の多いプロジェクトは、
漠然とした大きなスローガンを掲げたプロジェクト、
もしくはビックプロジェクトであることが多いです。(そうでないものもあるでしょうけど)
当初から大きな計画になっているビックプロジェクトに関しては、
本当にそのサイズである必要があるのか?しっかり仮説検証や要求事項の収集を行う必要があります。
大きなビジョンがあったとしても、
明確なゴールが見える小さなプロジェクトからスタートさせることが出来ないか考えてみましょう。
マイルストーンごとに次のプロジェクトにつなげるべきかどうか厳しい審査を行い、
次につなげるプロジェクトの計画と仮説検証をしっかり行うようにしていく必要があるでしょう。
ビックプロジェクトは一見魅力的に見え、
今までにない大きなプロダクトが作れそうなイメージがあります。
だからといって長期化前提で走るのは危険ですよね。
本当にその規模、その期間で良いのか? しっかり、じっくり検証する時間を取っていきましょう。
終わらせる方向に動くことも大事
では、既にそういった長期間のプロジェクトにいる場合はどうすれば良いのでしょうか?
一つは、一度全員の手を止めて立ち止まり、時間をかけて計画を見直してみることです。
もしくは、そう働きかけてみることです。
そのうえで、現状の分析、競合の分析をしっかり行います。
時にはどう考えても、プロジェクトを終わらせる方が良いという結論が出ることもあるでしょう。
そうなると、無理にプロジェクトを進行させるメリットを探しても、おそらく出てきません。
その時は、プロジェクトを終わらせる方向に動き始めます。それが最善である場合も多いでしょう。
孫子は語りかけます。
「戦争が長期化すれば、軍は疲弊し、兵士のモチベーションも下がる。」
「兵力や予算がなくなっていけば、それまで中立だった国にもつけこまれる。」
「戦争は少々問題があったとしても迅速に終わらせることはあるが、長引かせて成功したということはない。」
ダメだと思ったら、早めにプロジェクトを終わらせる必要もあるでしょう。
プロジェクトの計画をじっくり行い、実行は短期間で終わらせる
こういった長期化を引き起こさないためにはどうすれば良いのでしょうか?
プロジェクトの立ち上げにおける計画をしっかり、そしてじっくり行うことでしょう。
そうしていけば、大抵の場合は長期化させる必要はなくなる、
もしくは小さなプロジェクトから始められるのではないでしょうか?
計画通りにいかないこともあるでしょう。
「うう。プロジェクトが当初の想定を超えて長引いているな…。これはもう終わらせた方が良いな。」と思ったら、早めに終わらせることも大切ですよね。
「兵は拙速を聞くも、いまだ巧の久しきを睹ざるなり」
孫子から教わる、身に染みる言葉です。
参考書籍:孫子 (講談社学術文庫) 著者:浅野 裕一